ミケ日記 2006年12月 |
12月1日 金曜日 晴れのち曇り時々小雨 我輩はミケ、猫である。はやいものでもう師走。めっきり寒くなった。いつのまにか川向こうの銀杏の木がすっかり金色になっている。道に散り敷いた枯葉の上を歩くのは気持いい。銀杏の葉のしっとりした感触は我輩の肉球には独特の魅力がある。 北陸の冬らしい移ろいやすい天気の日だった。午後、Kちゃんが赤ちゃんを見せに着てくれた。とても機嫌が良くて大人しくてカワイイ。何も無い空間をじっと見つめる。何か見えているのだろうか。ただの天井でも面白いのだろうか。 12月2日 土曜日 雨 今日は窯焚き。人間たちはせかせか窯場へでたり入ったりしている。我輩もそのついでに外に出て見たら、シロと出会ってしまった。ヤミクモに追っかけられて雨に濡れるは毛なみは乱れるはで、すっかり気持ちがメチャクチャになってしまった。絵付け室のデロンギ・ヒーターにぴったりくっついてしばし眠った。 12月10日 日曜日 曇り 一週間ほどのご無沙汰だった。家の人間はここのところ口をきかないのでとても静かな日日であった。彼らはよく器のデザインでもめて冷戦状態になるのである。今回はお届けが遅れた詫び状を書くように頼まれたおるかが毛筆で書くというのでおっとせいが切れたのだった。おるかは手紙は普通筆で書くので、巻紙も当たり前のことなのだが、オットセイにして見れば、遅れたのをわびるのに悠長すぎると思ったのかもしれない。どっちにしろささいなことである。触らぬ神にたたりなしとばかり、おるかは絵付け室に籠もっている。幸か不幸か仕事場はけっこう広いので、お互いに顔を合わさずに仕事できるのである。一週間で仕事が随分はかどったようである。 12月12日 火曜日 曇り時々日が差した。 午前中、大聖寺にお住まいのお客様が見えられた。いつも曽宇窯の品物をお中元とお歳暮にしてくださるお二人である。美味しい季節のお菓子もご持参くださる。手ずから刺繍なさった」ひざ掛けまでお土産にいただいた。刺繍の目などきっちり揃って玄人はだしのできばえである。おるかなどよりずっと手の器用なお二人なのである。 「不器用なものが努力すると味わいがでるのよ」とはおるかの言い草である。細かいようで粗忽なおるかという人間は小心にしてずぼら、.おぼえがいいようで超うっかり。妙に理屈っぽいようでいてまったく底が抜けている。ともかく日常生活に適応できないやつである。焼き物をしていなかったら、他につぶしが利かないのである。 12月13日 水曜日 雨 もの悲しい冬の雨だ。こんな日は我輩は昼ね。おるかは読書ですごす。もちろん人間は仕事の後でのことだが。我輩は寝るのが仕事なのだ猫だから。 それにしてもおるかは憑かれたように読む。しかし最近、以前に図書館から借りた本をもう一度借り出してしまって、ちょっと読んでからそれに気づいた。ショックを受けたと母親に電話で話していた。おるかの母も本の虫である。その彼女が「私くらいの年になると読み終わってから、あ、これ前にも読んだんだったわと気づいちゃうのよ」と答えていた「二、三ページならまだまだよ」とか。 12月16日 土曜日 曇り 夜になって東京からお客様。最近ご結婚なさったおるかの姪御さん夫婦である。金沢の21世紀美術館でお友達のイグズィビションがあったので、ついでに加賀まで足を伸ばして下さったのだ。 夕ご飯にバイ貝だの耳イカだの北陸の珍味を食べたらしい。我輩はちょうどそのとき散歩にでていたのだ。残り香ばかりが部屋の中にこもっていた。残念である。ふてくされていると、お客様が二人とも猫好きでちょっとばかりちやほやされて、少し気分がよくなった。にんげんたちはお隣のおバーちゃんがわざわざ雨の中摘んでくださった春菊のおひたしの美味しさに感激していた。採りたて野菜の味か…猫にでも分からぬことが世の中にはある。 12月17日 日曜日 午前中曇り時々晴れ間、午後から小雨 工房を見た後おるかとお客様は雨の晴れ間に山道を散歩しにいった。我輩はゆっくり朝寝。お昼過ぎに人間たちは打ち揃って「金津創作の森」美術館で別のお友達がワーク・ショップにでかけた。「いろんなこと自由に試みて楽しそうだねー。若い人たち、たのもしいね」とおるか。「玉石混交だね」とオットセイ。 夜テレビでフィギュア・スケートのグランプリ・ファイナルをみた。日本選手はジャンプを失敗したり、みていてはらはらした。ものすごい緊張なのだろう。優勝した韓国選手の演技は優雅だった。 12月20日 水曜日 晴れ 朝一番でおるかは歯医者さんの定期健診へ。戻っても部屋の中にまだ朝日がさしていたので我輩が日向ぼこできるように音を立てずに障子を開けてくれた。ちゃんと知っているのだ。 オットセイはこのところアレルギーのため鼻づまりがひどくて仕事に手がつかないようだ。それでも年内にもう一度窯焚きしなくてはならないので、なかなか大変である。 12月22日 金曜日 曇り時々晴れ きょうは冬至。おるかは柚子湯のために庭の柚子を採った。といっても今年、柚子は稀に見る不作だったので霜でぼこぼこになった二個しか取れなかった。それでも「あすからはまた日が長くなってくるのだ」とおるかは妙に嬉しそうであった。柚子の木にお礼として「君よ知るや南の国」だかなんだかと歌を歌って聞かせていた。意味がわかったら柚子が気を悪くするのではないかと我輩は心配だった。柚子だって柑橘類である。好き好んで雪国に生えてるわけではないだろうに。 北朝鮮の非核化のための六カ国会議が何の進展もなく閉会となったと7時のニュースで放送されていた。拉致問題や人道問題やもちろんとても重大なンだけれど、北朝鮮の言いたい放題ぶりには不謹慎とは思うが笑ってしまう。「日本はアメリカの属州だから参加する権利がない」といったときなど、もう笑った笑った。 12月24日 日曜日 晴れ 美しい冬の光が枯れ草の上に落ちている。久しぶりで長い散歩。梢の向うの空がしんと澄んでいる。クリスマス・イヴの喧噪もこの山中には全く届かない。 12月26日 火曜日 曇り夜に入って雨 図書館でお正月休み用に20冊かりだす。いつもの鞄に入りきらないくらいで重いの何の。駐車場まで歩くだけでよれよれ。 午後、年賀状を書く。おるかは毎年手描きする。畳の上に百匹の赤い猪軍団だ。「日下江(くさかえ)の入り江の蓮花はちす/身の盛り人と羨もしきろかも」たしか赤猪子さんという方の歌だ。「ろ」が金沢弁みたいだ。 ピアノを弾く建築家O氏がひょっこりお見えになった。「田中一村に夢中」なのだそうだ。「アダン」という一村がモデルの映画を見に大阪まで行ったとか。 12月27日 水曜日 晴れ 窯出しをして大急ぎで荷造り。年賀状も出した。これで年内に発想するものは終わりだ。人間達がすこしほっとしたのを見届けて我輩は散歩に出かけた。冷たい空気が我輩を活気付ける。猫離れしているかもしれないが、雪を見るのも好きである。ただ霙はベチョベチョしていただけない。肉球の不快。 四十雀が鳴いている。川烏が水に飛び込んではまたせかせかと石の上にもどる。彼らは何の因果でこの冷たい川で足を濡らして暮らす運命をえらんだのだろう。彼らには彼らの楽しみがあるのだろうか。 12月28日 木曜日 霰 黄金色のひかりが枯れた風景を照らすかと思うと急に大粒の霰。廊下を踏む肉球にしんしんと滲みてくる寒さが尋常ではない。 「石川この一年」とかいう番組の中に,日本海のさびしげが港町が写る。と「能登の方は、あんまりしらないなー」とおるか。「どっちかいうと海より山のほうがすきだからねー」「でもワタリドリの休憩所の舳倉島には行って見たい。夏だね」ともう来年のことを考えている。 12月29日 金曜日 雪 目を覚ましたら銀世界だ。新雪がまぶしい。重い雪らしく庭の金木犀や枇杷の枝が大きくたわんでいる。 京都の料亭さんから京野菜が届いた。聖護院蕪はさっそく皮をむき漬物に。皮もザク切りにして鶏肉と炒める。これが又美味しい。水菜もさすがに京都のは細くて上品だ。 Kちゃんがご主人と一緒に挨拶にきてくれた。素敵な入浴剤をいただいた。またもやありがたい。 午後からおるかはお礼状と料亭の玄関に飾ってくださるという葉書絵を書いた。郵便局へ行こうとしたが、タイヤがまだスノータイヤに変えていなかった。そうこうしているうちにもう日は暮れてくる。本当に日が短い。 12月31日 日曜日 晴れ 穏やかな日よりである。雪もおおかた消え、小鳥たちは忙しく枝の間を縫ったり地面に下りたりしている。 夕方になって、おるかはお正月飾り風手作りリース(?)を家の玄関と仕事場の玄関に飾った。庭の南天の大枝を切ってお正月の花に、鏡餅の奥に白山神社の御札をかざって、ありあわせながらお正月を迎える気分になってきた。なんだかこの一年は早かった気がする。らいねんは我輩も十年を閲することになる。しばし来し方行く末を思って瞑目した。え、寝てるだけだろうって?! |