ミケ日記   2007年4月

4月1日 日曜日晴れ

はんなり暖かな日であった。家の人間達は朝っぱらから、「ことしこそフィギュア・スケートを始める」の「小女子にイルカが混じっていたのを食った」「青い桜が咲いた」「そこで金髪で白い服の人がワイン一杯くれというので無いよといったらケッといって空飛んでいった」のとバカがうつりそうな事を言い合っている。

おるかは一日うろうろと鉢植えの整理や植え替えで、手首を傷めていた。


4月2日 月曜日 曇り

お昼ごろ鎌倉のお店「茜」のオーナーいらっしゃる。しごとをさっさとすますと果物など食べながらおるかと本の話や焼き物の話。飯田龍太氏がお亡くなりになったので「私の結社の先生がなくなったより哀しい」とか。そ、そこまで言うか。

慌しく隣村の陶芸家さんのところへ回って行かれた。このあたりはそれぞれの山間に焼き物をやってる人が一人はいる。

 数日まえにテレビで見た千島列島のことをまた思い出している。美しかった。再放送なので始めてみた時も人間のいない風景の美しさに打たれたが、なんど見ても「あぁ」と思わず声がでる。
 もしも我輩がどこか薄暗い家の軒下やゴミのあいだで息絶えるようなことになっても、あの美しい島がそんなことには関係なく存在していることを思い出せば、やすらかにあの世に行けるような気がするのだ。この地上に妖精がもし生き残っているとしたらあそこしかないだろう。

 こうしてみると、あれらの島々が日本に返還されたら、きっと観光地化されるだろう。観光客がゴミを捨てたり騒々しくなってホテルはさすがに建てないまでも希少なチシマキンバイの斜面に遊歩道なんかは作るに決まっている。そしてそこから、火山性の土地の脆い自然は崩れていってしまうだろう。

それを思うと死んでも死に切れない気持だ。観光化にゴーサインを出した政治家には化け猫になってたたってやろうと決意した。幸いまだ先の話だが。


4月3日 火曜日 曇り後時々日差し

御前に赤坂鏡花から荷物戻る。一応チェックしなければならない。芳名帖のコピーも入っていた。おるかは来て下さった方々のお名前をみては懐かしんでいた。いろんな方に出会えたのが嬉しい展示会だった。それにしても来て下さった方がみんな「いい店だ」「お酒が美味い」という感想ばかりなのが微妙なところだ。

お昼ごろ支払いや振込みに郵便局や吟行を回り、図書館に返却し、苗屋さんに寄った。秋の終わりに消えたアルバイトの女の子が春とともにまた顕われている。まるでプロセルピナである。

オットセイは九谷焼美術館のショップへ十点ほど搬入。山代温泉の名旅館「あらや」さんのショップに持って行くものを選ぶ。

今日は全国的に寒い日だそうだ。山の桜がちらほら咲き。庭の枝垂れ桜はもう開きそうなのだが、なかなか慎重だ。

 


4月5日 木曜日 曇り時々晴れ

昨日は二月半ばの寒さ、今日も風がとても冷たいが空は何のわだかまりも無い青さでまったく早春のよう。

おるかは裏の流れに水芭蕉を植えた。二株植えて自然に増えるのを待っていたら、この十年まったく変化なかったので業をにやして買って植えることにしたのだ。同様に前の庭の仕事場からみえるあたりにも山芍薬を植える予定。
オットセイは山野草を買ってうえるなんて邪道だと言うが、自然に任せてほっておくと外来種が蔓延る昨今なのである。


4月8日 日曜日 晴れ

庭弄りシーズン到来である。おるかは朝っぱらからおそろしく非能率的な、系統だった思考を毛ほども感じさせないやりかたで鉢植えの整理をしている。

 午後一時ごろから三時過ぎまで、おるかは友人のT嬢と公園の花見にでかけていた。T嬢の家には17歳になる猫がいるという。歯が抜けてしまって一時は危ぶまれたが「薄ーい豚シャブ用の肉を食べたら元気になってきた」そうだ。我輩はいまだ食べたこともない食品だ。あちらの家では猫も随分と大切にされて美食をしているらしい。しかしその結果かどうかしらないが病気が多いようだ。その点我輩は質実剛健である。

熊坂側にそった染井吉野の並木は今年は妙に元気が無かった。神明宮の前で桜祭りの支度をしていた人たちも誰に聞かせるとも無く「この辺の桜もかなり古いからな」と言い合っていた。神明宮の神木の枯れたこぶこぶの幹に手を合わせて戻った。

T嬢の家の椿は盛りを過ぎていた。地面に夥しく散り敷いた椿の花のあいだを駒鳥みたいな鳥が動き回っていた。今年は椿は庭の白い椿も山に自生している藪椿も怖ろしいほどたくさんの花をつけた。雪が少ないのは椿にはよほど嬉しかったと見える。


4月9日 月曜日

家の人間たちは書類に必要な印鑑証明をするべく出かけていって、書類に押してもらうのを忘れて戻ってきた。うすうすは感じていたが、やはりほんまもんのバカだったのだ。

桜餅は忘れずに買って戻って、お隣のジーちゃんバーちゃんと庭の桜を見ようと誘ったが、ジーちゃんは山へ犬の散歩にバーちゃんはバイクでお出かけ。おるかは夕風の中一人でお茶を入れてしみじみと花を眺めたのだった。


4月11日  水曜日 晴れ

庭の枝垂れ桜が満開だ。開ききると白っぽくなって、蕾の濃いピンクから五部咲き、八部咲きとさまざまなピンクの諧調が泡立ちあふれ出している。

「平安紅枝垂れのような派手な桜は黄昏がひとしおいいのぉ」とおるか。裏山のさくらが散り始めた。花びらが斜めになった山国の光の中を身を震わせて風に乗ってゆく。「あぁ あはれ今年の春も去ぬめり」。

ところで、我輩はよくおぼえていないのだが、我輩の生まれたのもこんな春の日だったという。十年前のことだ。

「ミケにもお誕生日のお祝いしなきゃね」と猫なで声を出すおるか。「カリカリのカツオ節トッピング、いつも一つまみだけど特別二つまみにしてやろう。どうだ、二倍よ、二倍!」
あぁ、なんというドケチ。


4月13日 金曜日 午後から風がでた

 今日は13日の金曜日。とはいっても我輩には関係ない。我輩はミケ、猫である。

おるかは午前中からロクロ場で葉っぱ形の小皿を作っている。素地作りはお天気に左右される。乾燥して暑い日だと作ったものがどんどん乾いてたいへんだ。雨の気配がするだけで、乾きはぐっと遅くなる。風に当てたらすぐ乾く。それでも口の辺りや薄い部分だけ早く乾いて 底の乾きが遅れると収縮率の違いが亀裂をつくることになる。手先にだけ没頭してもいられないのだ。

肩が凝ったとやおらヨガをしたり手をぶらぶらさせたり、人間も楽じゃないようだ。

夜になると経済的な夜間電力で素焼きをする。朝の2時くらいまでかかる。にんげんも夜行性動物なのだったっけ?


4月15日 日曜日 晴れ

今朝も二時半ごろ寝たおるかだが、日曜のわりには早起きして朝食を食べていた。月曜日にUPする予定の文など書いている。時々5分ほど庭先で草を毟ったりしてはそそくさともどってまた書く。お昼ごろ書き上げたが、それから後オットセイが文字サイズやらなんやら細かなことを注意してそれで3時になってしまった。ドタバタと掃除洗濯などすると春の日ももう夕方。あわててネット句会用の俳句を作る。せわしい一日だった。

冬の間、巣になっていた炬燵を引き上げて、おるかはほぼ半年振りに部屋の机にもどった。炬燵に入るとどうしても目の前のテレビを見てしまうので、冬の間は俳句が作れないと弁解する。炬燵のせいじゃなくて自分の意志が弱いだけに決まってるだろが!炬燵の周りの本は移動させたが、結局、夜になると肌寒くてまた炬燵に舞い戻ってきた。百円ショップで買った偽毛皮の玩具を我輩の目の前でピコピコさせる。寝たままパンチをくれてやると「横着な態度ね!」というが、付き合ってやってるのも疲れるのじゃ。

今日、三重県で地震があった。能登地震もまだ復興の目処が立たないのに。なんだか地震や異常気象や地球が機嫌を損ねてる感じだ。


4月17日 火曜日 曇り

昨夜から冷え込んできた。庭に出ると我輩の純白の足の間を風がヒュウウと吹き過ぎる.用を足すのを諦めて室内に戻った。

走って戻る間の一瞥に 枝垂桜が葉がちになってきたのを見た。白山イチゲのがくのあたりに薄い影ほどほんのりとモーヴ色が滲んでいる。そろそろ花も終わりらしい。ソソとした花の散り際の華やぎである。

二階の窓から眺めると雲の切れ目から裏の山に一筋の光が降ってきた。濃緑の杉林をバックに柿若葉がペリドットを鏤めたようである.小鳥たちのサエズリが聞こえる。我輩は目をつぶった。このひと時は永遠だ。
「なにそんなとこで寝てんだよ」とおるかの声。無粋なやつめ。寒いと機嫌が悪くなるらしい。「冷えた」といって仕事を五時でやめて炬燵にもぐりこむ姿がノシイカのようである。


4月22日 日曜日 晴れ時々曇りよるになって雨

 昨日は初夏のように暖かく、我輩は久しぶりで外泊した。戻ってみると おるかは庭弄りしすぎたらしく、また手首に湿布をしていた。我輩は湿布の匂いが嫌いではない。というかミントの香りがすきなのだ。マタタビはそれほどピント来ない。

きょうは統一地方選挙の日だそうだが、この辺りは関係ないらしく静かな日曜だった。
おるかは「どっちにしろ与野党が伯仲してお互いに牽制しあってもらったほうが国民のためだよ」と他人事のように言う。
「阿部首相の顔がだんだんヒトラーに似てきたような気がするし〜」「地球環境がこれほど逼迫してるのにまだ人口を増やそうなんてんだからね。」「保険だの年金だの、永久に人口が増えていかなければ成り立たないシステムなんて持続可能なわけナイジャロが!」
おるかに言わせると子供のいない家庭は地球に優しい家庭だそうだ。

夕方なってしんみりした雨が降り出した。
「これで一気に新緑になるね」と窓から顔を出しておるかが言う。「裏庭のエビネもいっぱい蕾があがってるよ。キレイねー、エビちゃん」「エビちゃんのとなりのセンノウもホトトギスも萌えちゃんだよー」。いいかげんにしろ。
それでもおるかが暇を見ては雑草をぬいているので、このごろ家の周りが多少とも庭らしくなってきた。オットセイが竹笹類が好きで何かと植えると根が花壇にも蔓延る。それをおるかが意地になって抜いてまわるのである。ご苦労なことだ。

夜中近くになって、おるかは締め切りの近づいたエッセーに手を付け出した。いつもながらぎりぎりになるまでブラブラして、最後にひめいをあげる予定のようのである。


4月26日 木曜日 晴れ

朝起きたら、新緑の世界だった。昨晩の雨で一気に緑が増殖した。それでも風はけっこう冷たく爽やかだ。白山吹が咲きだした。山吹よりもくっきりした襞を刻んだ葉っぱが我輩は気に入っている。利休梅も上品な白い蕾を泡のように枝先に盛り上げている。野趣があって気品もある。
裏庭には白糸草や白花エンレイ草が蕾をつけている。いい季節だ。

おるかは今週はずっとホンの千八十字のエッッセーを書きあぐんでいる。我輩がまたゴースト・ライターになって書いてやろうかとおもったが、夜になって一気書きしてそのまま指定の用紙に書いてしまった。要するに考えるのに疲れただけなのであろう。


4月27日 金曜日 晴れ

おるかは書き上げた原稿を郵送するべく郵便局に行こうと車に乗った。大して悩んだわけでもないが書き上げたあとは開放感がある。村の中を抜けると道脇で立ち話している人たちがこちらを見る。機嫌よくにっこり挨拶を返したりしながら、村を出てスピードをあげるとガチャンと音が!!車の屋根からコーヒーカップが落っこちて道に砕けていた。オットセイが車の後部の屋根に載せたままにしていたらしい。欠片をひろっていると通りがかる車が不審そうに見ていく。立ち話をしてた人たちもカップを見てたのね。

気を取り直して、郵便局の後少し買い物して帰る。夕方までだまっていても肩が痺れるほど仕事。
6時ごろ、茶房古九谷のお嬢さん方二人がホームページのことで見えられた。先日も仕事終わってすぐいらしゃってお腹がすいていたらしい。おるかは今日はお茶にクッキーなど出しておしゃべりして楽しそうだった。


4月29日 日曜日 晴れ

昨日は寒い日だった。おるかは風邪気味なのか朝から冴えない顔でぶらぶらしている。布団をじっとみているのは「寝てしまおうか、でも寝たら起きられないのではないか」とかなんとかつまらぬことをかんがえているのだろう。
いいお天気だ。庭の紫蘭が蕾をぐっと伸ばしている。桔梗の芽発見。シラネアオイが少し増えたようで嬉しいが蕾はないようだ。白花エンレイソウがふっくらと蕾をほころばせている。楽しみ。裏の流の水芭蕉は二つ目の花がひらいた。

庭の花を見ているうちに多少元気が出たらしく、おるかはヨロヨロしながら掃除を始めた。オットセイも何かする予定といっていたがそのまえに洗面所の引き出しの整理かなんか始めておそらく今日の仕事はこれだけになるだろう。

休み休みでもどうにか一日掃除や庭の枝切りなどして夕方には各部屋に花が生けられ、床もピカピカになった。きれいな床に足跡を付けるのは楽しい。我輩はミケ、猫である。

今日も六時に、茶房古九谷のお嬢様方お見えに。ホームページもこれで新しくなるらしい。

おるかは「きょうは具合悪かったわりには、掃除もピアノのおさらいもしたし、神楽坂の絵も描いたしやりたかったことができた」と満足そうである。「これで今夜中に句が出来れば文句無いのだが」。


4月30日 月曜日 晴れ

美しい青空、往く春のかがやき。小鳥は歌えり庇に軒に〜♪。
我輩は一日楽しく散歩。おるかは各地で夏日になったというこの陽気に「寒気がする」とTシャツ・毛糸のセーター、その上にフリースジャケットと真冬並みのいでたちだ。しかも、それで日向の草むしりをして汗一つかかないらしい。

温暖化で酷熱の夏が心配される今年だが、みんな風邪気味になって寒気してれば冷房の必要がないのではないだろうか。うむむ究極の夏場の電力消費抑制策ではないか、これは!?

そのうえ、食欲もなくなるらしく一日紅茶にクッキーを少しばかり齧るだけで、しかも仕事は軽作業ながらほとんど普段と変わらない。これはエネルギー効率もいいではないか?これだけのエネルギーで一日稼動する機械なんてないぞ!。うーむ、風邪気味は地球に優しい!

世の健康オタク達よ、たまには風邪をひいてみるべし!

薄暗くなる頃に、桜に憑かれた歌人O氏が玄関に立たれた。今回は岐阜から富山をまわって石川県の樹木公園に寄り、滋賀のご自宅まで帰る途中だそうだ。今年はその前にも樹木公園→荘川桜、と回られている。ほかにも各地で写真を撮り歩いていらっしゃるのだから、なんというかすごい。おるかと桜の話をするうちに杉の木の間を月が昇りやがて朧に空に滲んだ。







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