ミケ日記   2007年6月

6月6日 水曜日 うす曇 夜に入って雨

 今年はホトトギスがよく啼く。姿を見たいものだと思って裏山に目を凝らしていると、鳥影が窯場の煙突の上の空遥か彼方を横切っていった。
 アカショウビンの声もする。しみじみうれしい。希少な鳥がシロの奴のえさになって絶滅したのでなくてよかった。

庭の朴の木が、初めての花を咲かせてくれたのがうれしかった。毎日夕方のひとときをベランダでぼーっと香りを嗅いですごした。それもどうやらお終いのようだ。最後の花が散ろうとしている。蘂が乱れて無残だ。朴の花の終わりはみたくない。

 おるかの痩せもどうやら46キロで止まっている。食前食後に紅茶とクッキーという非常手段をとって45キロ切れを回避している模様である。

 水周りの工事も終わり、静かな日常がもどってきた。おるかは裏庭の、重機の泥をかぶってしまったエビネを執念で掘り出している。白ホトトギス銘白楽天も折れてしまった。センノウも。それでも「今日は花壇の手入れもしたし、仕事も半日ながら集中出来たし、六月六日だから六時に六句作ったし、いい日だった。」と満足げな様子だった。


6月8日 金曜日 曇り、夕方になってぽつぽつ雨

 オットセイはこのところ家の前の工事の後の砂利のなかからゴミをつつきだすことにせいを出している。気になるととまらないらしい。とても細かいpラスチックの破片が混じっているそうだ。

 いつも食べていたイネ科の雑草の生えていたところも工事でつぶされてしまったので、我輩も多少難儀である。

 お昼ごろあたらしくできたパン屋さんにいった。小洒落たレンガに木枠の窓、フランス語とドイツ語のまじったような看板。きっとアルデンヌかモーゼル地方のパンなのでしょうか。
 おるかは自分の食べたいパンしかめにはいらないが、オットセイはチラと横切った女性のトレーの上の袋に包まれた食パンを一瞬みて「あっちの方が薄い。こっち(おるかのトレーの)は厚いから薄い方がいい」と言う。たしかにあちらは六枚切りこちらは五枚切りで六枚切りはたのまなければならなかったのだ。
 テレビで「名探偵モンク」というやたら細かい所に気が付く銘探偵のしりーずがあるが、オットセイはそのモンク氏によく似ている。

 園芸用品を買いにまわったスーパーは改装中だった。オープニングセールには植木鉢とか腐葉土とか安くなっているだろうか。楽しみである。


6月11日 月曜日 曇り

 先週末の雷雨で各地に被害があったようだが、さいわい、この谷では大したこともなく過ぎた。緑がとても綺麗だ。辛夷の木に小さめな小鳥が来るようになった。ムシクイの仲間だろう。すばしこく枝の間を飛び移ってゆく。

 自然は美しいが、人間の世界はこのところますます惨憺たるものだ。社会保険庁の年金の杜撰な管理とか、森林行政の談合とか。農水大臣が自殺したのもよっぽどひどいことやってたんだろうな。ともかく倫理観など毛ほどもない大人たち。こんな姿を見て育った子供達に立派な大人になれなんてだれもいえないだろう。
そんな官僚や政治家が教育改革だの、おせっかいにも親学などというのだから、まったくちゃんちゃらおかしいわい。

ハンナ・アーレントが責任ということについて、、国家的な犯罪でも指導者ばかりでなく社会の個人個人が、それぞれ責任がある。自分は歯車のひとつに過ぎなかったという言い訳は成立しない。と言っていた。たしかにとっても倫理的な考え方だが、それには情報の開示が前提とされるだろう。

カザンツァキは、「兄弟殺し」の中で、他者への憎悪を陰湿に煽られる状況で、ある時武器を与えられそれが正しいと扇動されると、それこそ燎原の火のように一気に隣人の殺戮へ奔ってゆく人の心の底の闇を描いていた。人間というのは本能が壊れた状態で生まれてくるどうしようもなく狂った生き物なのかもしれない。

 我々猫族が善く生きる術を身をもって教えてやっても、なかなか悟る人間は少ない。


6月14日  木曜日 曇り

 うちの人間達は新装開店になったDIY 用品のスーパーに園芸用のあれこれを見に行った。植木のための癒合剤とヘゴ板など最小限のものだけ買って戻ってきた。「もー、しまりやなんだからなー」とおるかは不平顔である。

オットセイは仕事嫌いで有名だった熊谷守一も土下座しそうな仕事嫌いだが、その分、使いもしない。収入もないが支出も少ないというミツユビナマケモノのような生活である。

なんやかんや欲しいもののあるおるかは、今日は夜十一時まで仕事をしていた。


6月16日 土曜日 晴れ

 日本各地、関東も梅雨入りしたらしいが北陸はまだである。その通り素晴らしい晴天だ。風も涼しくきもちよい。おるかは午前中裏のあちこちで集めた龍の髭を溝の周りに植えつけた。そのあと楓の枝が込みすぎたので剪定。枯れ枝を払うと多少庭も明るくなった。そのあたりで一日分のエネルギーを使い切ったとみえへろへろ。

午後、オットセイの古い友人のO氏がいつものことながら、飄然とあらわれた。若いお友達とご一緒である。京都で二人おちあって「一寸蕎麦が食いたくなって」福井県武生市の「谷川」まで足を伸ばし「ついでだから橋本君にもあっていこう」ということになって加賀までいらしたらしい。
 若い真面目なサラリーマン氏にはO氏のチョイ悪おじさんぶりが興味があるのかもしれない。チョイというよりかなり破天荒な方だろうと思うが。我輩のことを「カワイイ」と言ってくれたので猫を見る目はあるようである。

 山代温泉の名旅館「あらや」さんまで送っていったおっとせいによると、二人は「あらや」さんのすばらしい夕食の前に「はずちお」でカレーを食べたそうである。チョイ悪にはエネルギーが要るのであろう。


6月18日 月曜日 曇り

 おるかが「文様あれこれ」をUPするのに手間取ったのが、またもやオットセイの逆鱗に触れた。「何度やったらおぼえるんだ!」と三時間も説教。この間は俳句とその作者名の間の空間を2コマじゃなくて3コマにしたというので一時間説教だった。

ストレスのせいかおるかはスープをもどしていた。我輩も窓から最近このあたりをうろついている犬をみて一寸びっくりしたものだから、窓からゆかにかけて吐いてしまった。
 それにしてもポインターというのかポツポツの有る、品のなくもない犬である。それが捨てられたらしく最近になって見かけるのである。成犬を捨てるなんてひどい人間がいたものだ。犬とは金輪際友達になれないが、その我輩でも腹が立つ。かわいそうにすっかり痩せ細っていた。


6月20日  水曜日 晴れ

ほくりくはまだ梅雨入りしないのだろうか、いいお天気だ。昨日は窯を焚いたので、轆轤場はまだ暑い。

カラタネオガタマの香りを嗅ぎながら昼寝。あぁ、よくぞ猫に生まれたり。家の前のくるみの木のえだを払ったので日当たりがよくなった。ちょっと良すぎるくらいの暑さだ。

おるかは茜雲の徳利を描いたりぐい飲みを描いたりたのしそうだ。、このごろは数が前にも増して少ないので描く時間より絵の具を磨る時間のほうがぐっと長くなってしまって、なかなか仕事が進まないとこぼしていた。


6月21日 木曜日 曇り時々小雨

我輩が散歩に出ている間に、家の人間どもは、福井県勝山市の恐竜ミュージアムへ出かけた。我輩は眠っているようでもその気になればおるかの頭の中くらい覗けるのである。

山中から丸岡へ抜ける道がすっかり整備されて随分早く福井県にでられるようになった。九頭竜川では鮎釣りの人たちが腰まで流れに浸かってさをを振っていた。

恐竜博物館は以前より展示の内容も設備も格段にランクアップしていて見ごたえがあった。鉱物のコーナーもあって興味津々。我輩はカブトガニの化石の後ろについた、這った跡が印象的だった。何を求めて動いていたのだろう。ステゴザウルスの巨大な頭蓋骨の化石標本も迫力があった。あれでは頭が重かろうな。やはり一番人気はティラノザウルスらしく「ダイノ・ラボ」という施設では近々、こまごまとみることができる。巨大な卵型の館内は天井が高くていい感じだった。

ミュージアム・ショップではもちろん恐竜Tシャツがうられていた。おるかは「ウミユリ」の化石が欲しそうだった。どうもマンディアルグの傑作「海の百合」を連想しているようである。関係ないと思うのだが。アンモナイトの化石の前でも「素晴らしい渦巻きだ」と立ち止まっていた。

レストランのお品書きには「ザウルス丼」なんてのがあった。あまり美味しそうな感じはしない。

帰り道、竹田の里で出来たての枝豆豆腐をかった。


6月22日 金曜日 雨

昨日北陸は梅雨入りした。今日はいかにも梅雨らしいじんわりした雨が降っている。外に遊びに行こうかと思ったが雨垂れが鼻にかかったので思わず家に飛び込んでしまった。水は嫌いだ。おるかが「あーめがふります雨が降る〜♪」と窓から顔を出してうたっている。「あーそびーに行きたしかねは〜なし〜♪」つまらん替え歌である。

今日は夏至だというのに暗い日だった。そのうえに夜の八時〜十時まで電気を消して小さな蝋燭一個だけ点していた。環境を考えるキャンドル・ナイトだそうである。窓を蛍がよぎった。朴の葉裏にとまって幽かに動く蛍。うつくしい。

「こうしてると二時間は長いな」とおるか。しばらく暗闇でも出来るヨガをしていたが、そのうちピアノを弾きだした。手元がみえないのでいつもよりそっと触れる感じがかえって我輩好みである。我輩も鍵盤にのってしばらく即興演奏を楽しんだ。


6月24日 日曜日 雨

しとしと降り続く雨の中、オットセイは仕事場の雨樋の掃除をずぶぬれになってした。昔から雨が降ると外の作業を始める習性があるのである。前世は河童だったのかもしれぬ。

おるかは朝顔の苗を間引くことにしたようだ。たしかに生育が悪く、発芽してからこの方大きくなったようにも見えない。自分の家で採った種はそういうこともあるのだそうだ。いちいちごめんねごめんねと言いながら背中を丸めて作業している姿が陰気である。終えてしばらくしょぼくれた顔をしていたが一枚のファックスで忽ち有頂天になった。連句の会のお誘いだった。

古九谷修古祭に出品した荷物がもどってきた。御礼は例年通りタオルセットだった。オットセイはタオルの模様にひとしきり文句を言う。これもまた例年通り。

ボランティアで参加させていただいているのだから、別にお礼なんかいらないのにね。


6月29日 金曜日 大雨

もう、金曜日だ。先週末からオットセイは肩がこったといっては寝、頭が痛いといっては寝、の寝たきり生活だ。「普段から寝るのが好きな人はホントに具合が悪いとき発見がおくれてしまうおそれがあるな」とおるか。

源氏物語の冒頭「桐壺」でも源氏のお母さんの女御が「つねのあつしさになりもてゆけば御目なれて」とあったが人間というのはなにごとにも慣れてゆくものらしい。

 おるかも風邪気味だそうだ。仕事が遅れてしまうと気ばかり焦ってもなかなか進まない。おるかも今週はなぜか耳下腺が腫れて「プロ・レスラーの首」になっていた。今日は喉も痛いらしく我輩の耳元で詩の暗唱をしないので助かる。フランス語のRの発音をラシーヌ役者みたいにゴロゴロ響かせられるのはたまったものではない。フランス語では猫がゴロゴロいうことにronronner とちゃんと動詞がある。それはさすがにけっこうだと思う。しかし我輩の耳元でRonRonRonRとやるのはいい加減にしてほしいものである。


 






inserted by FC2 system