ミケ日記   2008年8月

 

8月1日 金曜日 猛暑日

 異様なまでに暑い。用事が三つ重ならないと外出しないと言っているオルカだが、今日はバタバタと電話があって外回りの日になった。まず山代の名旅館「あらや」の売店に飯茶碗を持ってゆく。そして司法書士さんのオフィスによって書類を貰う。オフィスの中で子供達が遊んでいた。夏休みらしくてのどかな気分。次に茶房「実生」さんに俳画(?)をお届け。美味しいお茶を頂いて上手に切りもどしてもらって水揚げのよくなった植物のように元気になって戻る。
 先月茶房にいけてあったキンシバイのことを珍しい珍しいとオルカがひとにはなしたら、その方が、努力して御捜し求めになったと聞いた。キンシバイは我輩も好きな花だ。しかし「茶房の帰り道、ふと気が付くと路肩に雑草のように力強く咲いているキンシバイの藪を発見しちゃったの。「ゲ!」と思ってしばらく走るとまた発見。その気になって注意してみるとけっこうあるのねー」と申し訳なさそうに下を向くオルカであった。苦労して手に入れて下さった方も見つけるだろうか。しかし、いい花であることは確かである。その後ホームセンターで網戸を受け取り帰宅。駐車のたびに車の中はジューッと焼きつきそうな暑さだったそうである。


8月3日  日曜日 晴れ

客間にお布団がほしてある。お布団の迷路に飛び込んだり隠れたりするのは楽しい。オルカが足をアッチから覗かせたりこっちからピコピコさせたり遊んでくれた。このところ以前よりよく遊んでくれる。町田康の「猫にかまけて」を読んだせいかもしれない。その本の中の若くして儚くなったへッケや二十二歳で逝ったココアの件を読んで多少日頃の行ないを反省したようである。町田康は我ら猫族をかなり理解していると誉めてトラす。

 夕顔の花が咲いた。ポッカリ夢のよう。


8月4日 月曜日朝早く雨。後曇り時々晴れ

 東京からTさんお見えになる。「加賀は涼しい!」と第一声。東京と比べたらそうかもしれないが異様に湿気がおおくてかなり不快な日だと我輩は思う。ホームページを診て下さるらしい。オルカのことも心配してくださってのことだろう。お優しい方である。一緒に買い物に行って夕ご飯にパスタを作ってくれた。久しぶりにニンニク・スペイン語ではアホ、の匂いがする。夜になってホームページをチェックしたTさん「オットセイさんきちんと作ってらっしゃる〜!」と声を上げていた。


8月5日 火曜日 晴れうす曇 

 朝、客室の前で我輩は草と毛玉をオエしてしまった。奇しくもそれが起床の合図となったのである。我輩のすることにはまったく無駄が無い。我ながらふと怖くさえなる。
 午前中、Tさんは倍速でネットの作業。置き場所を整理したりリンクの張替えをしたりブログを作ったり。プロの技は凄いものである。

 お昼は加賀料理「なか尾」でお弁当をいただく。エントランスには御香が焚かれ、たっぷり打ち水がされて涼しげだ。お料理は加賀の食材を可愛くきれいに盛り付けて女性好みな感じ。

その後、海岸へ向い、橋立漁港で海を眺めたりお魚を買ったりしてTさんは飛行場へ。お忙しい仕事の合間にわざわざきてくださって、ほんとうにありがとう。

「 この二日間、なんだかオットセイさんがすごく近く感じられたな」とオルカ。オットセイもTさんが大好きだった。色々話して楽しかったがオルカは思い切り語りつくして泣きに泣くということが出来ない性分である。収拾が付かなくなってしまうのが怖いのだろう。一人家に戻って、また別れの曲を弾いては、しょんぼり鼻をかんでいた。


8月8日  金曜日 晴れ

 夕方、夕顔が三つ一列に並んで開いた。三美神のよう。もの懐かしい香りが網戸を通してただよってくる。オットセイのいないのがどうにも不思議でならない。

北京オリンピックの開会式が始まった。いやはやすごい。さすが人海戦術がお家芸のお国柄である。お金かけ方も半端じゃない感じ。

 思うにあの開会式を見て一番うらやましかったのは、キム・ジョン・イル将軍サマだろう。北京の豪華絢爛ぶりにくらべたら、北朝鮮のお得意のマス・ゲームも色を失ってしまったことだろう。


8月13日 水曜日 晴れ

 今日も暑い日だった。暮れ方におるかが玄関先に七輪を持ってきた。それで迎え火を焚くらしい。「愛用の七輪の火なら間違いなく来る!」。たしかに。オットセイはしょっちゅうその七輪で魚を焼いたりおにぎりを焼いたり楽しそうだった。この夕べ、庭のの小枝をくべて小さな火を作った。クロモジ、シナモン、山椒、いい香りだ。奥の部屋にも和蝋燭の灯明が灯った。盆堤燈のかわりに樫尾氏の作品、ネイティヴ・アメリカンのテントのような灯りをつけた。


8月14日 木曜日 晴れ

 お盆で帰省中のお隣のご長男が新婚の彼女といっしょに器を見に来てくれた。若い二人はとてもお似合いのカップルに見えた。お祖母ちゃんがスポンサーらしい。なんていいお祖母ちゃんでしょう。オルカも初々しいカップルに使ってもらうと深皿をプレゼントしたり嬉しそうだった。

 夜中になって、やおらオルカは部屋の模様替えを始めた。一人ではなかなか動かせないものもあって、、グレゴール・ザムザ氏の”運動”のようにゴソゴソ、じわじわとやっていた。


8月15日 金曜日 晴れ時々曇り 夜になって大雨

 紺色の朝顔がベランダから軒までわたした紐を咲き昇っている。夕顔の花はしおれて不機嫌な拳骨になっている。朝顔と夕顔の蔓は同じ紐の場所を争うようにまきつきあっているが、これだけ花の咲く時間が違っているから花粉の混ざる心配は無いわけだ。ひょっとすると花たちが咲く時間を違えているのも、下手に近似種と受粉してしまってその結果種が出来ないなんて効率の悪いことにならないようにしているのかもしれないな、と我輩は思った。DNAとは排他的なものである。

「朝顔みたいな紺絞りの夕顔があったらいいだろうにな」とオルカ。さいきんは実際遺伝子操作でキマイラ植物もできているらしい。人間というのは、根っから反自然なやつらである。


8月18日 月曜日 晴れ時々曇り

 昨夜の雨でとても気持のいい朝だった。まっさらな月曜日。全てが新鮮に見える。

午後遅くU嬢が怪獣のようなゴーヤや葱などお野菜を持ってきてくださった。その後オルカと二人で書道鍛錬会(?)をはじめた。U嬢はプロ級の書家である。美術館の中のカフェのイヴェント用に書くものの案をねっていた。オルカはあいかわらず、かなを書いたり漢字を書いたり遊んでいる。

 暑いので気分がくさくさするから人でも噛んでやろうかとおもってU嬢に近づいたが、まったく警戒せずなにごころなくにこにこされて毒気をぬかれてしまった。オルカの方に寄って行くとさすがに我輩を知りぬいているものだからなかなか隙が無い。首の後ろを掴まれてムムムと天を仰ぐと「気持よさそう」とU嬢はおっとりほほえんだ。


8月19日 火曜日 晴れ時々大雨。熱帯モンスーン地方気候

 きょうはオルカは夏風邪。風邪薬をのむためにきちんと一日三度食事したら、0.5キロほど体重が増えたそうである。


8月22日 金曜日 晴れ

 オルカは九谷焼美術館のカフェ「茶房古九谷」に行った。「かざる」をテーマにした特集のため、壺やペンダントトップをおいてくるそうだ。ペンダント・トップのモデルはもちろん我輩である。ミケである。オルカはここでいつもゆっくりお茶いただくのをを楽しみにしている。月ごとにさまざまなお茶がお薦めになってあきないのだそうだ。

 絵付けの部屋の窓から外を眺めるとシュウカイドウが咲きだした。人こそみえね秋はきにけりである。外猫たちもすっかり食欲の秋モードにはいったようだ。タマが新入りのシロベーにパンチをいれていた。新入りの方は大きいのにやりかえしもせずうつむいている。シロベーは日がな一日ほとんど動かずデレーとよこになっている。虫を取ったりもしない。ナマケモノのように最低限のエネルギー消費で生活しているのだろうか。ある意味で珍しいタイプの猫である。


8月25日 月曜日 晴れ 涼しい

 オルカ、山代温泉の司法書士サンへ書類を届けに行く。これで相続関係の手続きも終わる。オットセイの名前がまた消える。少し寂しい気分だ。

 帰り道のスーパーでシャンプーとコンディショナーを買ったオルカ、「容器の色が気に入ったから」という理由で選んだそうだ。「効能より見た目重視ですな。私は美にいきるの」なぞとかっこつけているがさまざまな使用法や利点など読んで比較するのが面倒なだけに違いない。


8月28日  木曜日曇り時々小雨

車検というものがあるそうで、今朝作業服姿の若者が車を運んでいった。我輩よりもの年上の車である。相当費用がかかりそうだ。ここへ来てクーラーの故障だの香典だのと何かと物入りのようだ。オルカは頭を抱えている。「ものを作る他無いですよね」ときょうは夜まで仕事していた。道楽もんのいっとき働き。

 アフガニスタンでペシャワール会の会員が誘拐され殺されてしまった。あれほど腰の据わった活動を長年してきた団体なのに、気の毒でならない。亡くなった人は農業の専門家で人のために尽くしそして死んでしまった。まだ若かった。現地の状況はよほどひどいのだろう。


 

8月29日 金曜日 雨

 各地でゲリラ豪雨の被害がでている。家の前の川は見たところ水量も増えず静かなものだ。

 朝早くおるかは歯医者さんへ行った。我輩が寝ている間にでかけ、寝ている間に戻ってきた。定期健診だけなんだそうだ。今日は涼しくよく眠れた。夕方に目を覚ますとオルカがいそいそと出かける支度をしている。といっても大したことはない。いつものバッグから財布、携帯電話、運転免許などををお茶席用の懐紙と一緒に小さな袋物に詰め替えるだけである。九谷焼美術館でナイト・コンサートがあるそうだ。以下はオルカの話である。

 茶席は重要文化財の長流亭を写したもので周りをギャラリーが取り囲む。お手前をなさるお嬢さんはたまたま顔見知りの方だったが、緊張した面持ちは美しく、お茶をしてる女性ってこんなにきれいに見えるんだなとあらためて感心した。お菓子には公園の色づき始めた木々の葉が添えられコンサートらしく♪の模様が押してある。「福文」のお菓子は超一級品だけの持つ、かろやかさがある。

 ヴァイオリニストとはオーケストラ・アンサンブル金沢の第一ヴァイオリンのかたで、選曲もご自身で考えられたそうだ。あいにく雨だったが、まず「月の光」ではじまり、「タイスの瞑想曲」ではちょとちょうしがでないみたいだったが、パルテイータを弾き始められると気持も乗ったらしくヴァイオリンも良く鳴りだして、しばし何もかも忘れて聞き入った。最後のシャコンヌまで通して聴けてとてもよかった。


 






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